東北大学・金属材料研究所・計算材料学センターのスーパーコンピューティングシステムは、日立製作所が導入したスーパーコンピュータ(Cray XC50-LCおよびCray CS-Storm 500GT)、 並列計算・インフォマティクスサーバ(HPE ProLiant DL360 Gen 10)から構成されます。下記にシステム構成図およびシステムの性能を示します。
システム名 | スーパーコンピュータ | 並列計算・インフォマティクスサーバ | |
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機種名 | Cray XC50-LC | Cray CS-Storm 500GT | HPE ProLiant DL360 Gen10 |
外観 |
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サーバ台数 | 計算ノード 293台 I/Oノード等 27台 |
29台 | 29台 |
CPU |
Intel Xeon Gold 6150
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Intel Xeon Gold 6150
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Intel Xeon Gold 6154
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アクセラレータ | - |
NVIDIA Tesla V100 for PCIe
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- |
主記憶容量 | 768 GiB/サーバ | 768 GiB/サーバ | 576 GiB/サーバ |
システム総演算性能 | 3.03 PFLOPS (CPU性能: 1.00 PFLOPS, GPU性能: 2.03 PFLOPS) |
100.22 TFLOPS | |
システム総CPUコア数 | 11,592 Core | 1,044 Core | |
システム総GPUコア数 | 1,484,800 Core (290基) | - | |
システム総主記憶容量 | 241.6 TiB | 16.3 TiB |
愛称: MASAMUNE-IMR
MAterials science Supercomputing system for Advanced MUlti-scale simulations towards NExt-generation - Institute for Materials Research
仙台開府の父であるとともに、帆船サン・ファン・バウティスタ号によって仙台から世界を目指した伊達政宗公にちなみ、東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータで得られた材料科学に関わるマルチスケールシミュレーションの研究成果を、次世代に向けて仙台から世界へ広くアピールできるようにと、東北大学金属材料研究所のスーパーコンピューティングシステムの愛称を、”MASAMUNE - IMR” と致しました。
スーパーコンピュータの筐体パネルには、愛称の文字と墨絵師の御歌頭氏が描いた仙台の地から次世代の材料科学の世界を見据える政宗公のイメージがデザインされています。
※ この愛称は一般公募され、応募総数486通の中から青森県十和田市の会社員の方の作品を採用させて頂きました。
※ スーパーコンピュータの筐体パネルのデザイン画は、MASAMUNE-IMRという愛称をもとに、墨絵師の御歌頭氏に依頼し作成して頂きました。
ドローン、ロボット、自動車、医療機械などに利用されている精密な微小機械システムは、それらの需要の高まりに呼応して、近年、加速度的な発展を遂げてきています。しかし、ドローン、ロボット、自動車、医療機械などの中で微小機械システムが駆動する時に、微小機械システムの材料同士がこすれあって摩耗が発生し、機械の精度と耐久性に大きなダメージを与えることが重大な問題となっています。特に、微小機械システムはそのサイズが非常に小さいことから、エンジン、モーター、トランスミッションなどの通常サイズの機械システムでは問題にならないような極微少量の摩耗が、システム全体に大きなダメージを与えることが問題となっており、極限まで摩耗量を低減することが強く求められています。
上記の問題を解決し、微小機械システムの長寿命化、耐久性の向上を実現するためには、実験研究を行う以前に、材料や使用条件によって、どれだけの摩耗が発生するかを定量的に予測できる理論式の構築が求められます。しかし、微小な機械システムにおいては、この摩耗現象は数十ナノメートルの摩擦界面で起こることから、エンジン、モーター、トランスミッションなどの通常サイズの機械システムで起こる「肉眼で観察可能な摩耗」とは異なり、原子レベルの化学反応に支配された「肉眼では観察できないナノスケールの摩耗」が主要な要因となっています。そのため、通常サイズの機械システムに対する従来の摩耗量の予測式は、微小な機械システムには適用できない問題が古くから指摘されてきましたが、長い間、この問題は解決されていませんでした。
そこで、スーパーコンピュータ「MASAMUNE-IMR」上で、化学反応を含む複雑なマルチフィジックス現象を解明可能な反応分子動力学シミュレータを開発することで、微小機械システムの摩擦界面で起こる「摩耗を誘発する化学反応メカニズム」を明らかにし、これに反応速度論を適用することで、微小機械システムにおける材料の摩耗量の予測式を提案しました。さらに、ダイヤモンドライクカーボンの摩耗量を反応分子動力学法によってスーパーコンピュータ上でシミュレーションしたところ、本研究で構築した非常に簡便な摩耗量の予測式によって、スーパーコンピュータを活用した長時間計算で得られた摩耗量を定量的に予測できることを明らかにしました。これは、微小機械システムの長寿命化に加え、故障・事故の防止に貢献しうる成果です。
図. 摩耗量予測式とシミュレーションで得られたダイヤモンドライクカーボンの摩耗量の比較
― (a)粗い表面同士の摩耗プロセスと、(b)BallとDiskの摩耗プロセスにおいて、摩耗量の荷重依存性が異なり、さらに(a)と(b)の両者の場合ともに本研究で構築した非常に簡便な摩耗量の予測式によって、スーパーコンピュータを活用した長時間の反応分子動力学シミュレーションで得られた摩耗量を定量的に予測できることを明らかにしました。
Yang Wang, Jingxiang Xu, Yusuke Ootani, Nobuki Ozawa, Koshi Adachi, and Momoji Kubo
Adv. Sci., 8 (2021) Art.No.2002827, https://doi.org/10.1002/advs.202002827
磁性体の中では、個々の磁気モーメントは隣接するモーメントと特別なパターンを形成する。磁性体の物性はこの磁気構造の対称性によって規定されるため、磁気構造を正しく予測することは磁性体の第一原理計算において非常に重要である。しかしながら、磁気構造の予測は今日の物性物理学において最も挑戦的な課題の一つとされるほど難しい問題である。これは磁気構造が複雑になるとスピンの自由度の数が膨大なものとなるためである。この問題について、我々はクラスター多極子理論 ( Cluster
Multipole Theory, CMP ) に基づき、与えられた結晶構造において実現する可能性が高い磁気構造の系統的生成を行った。得られた磁気構造に対し、局所スピン密度近似 ( Local Spin Density Approximation, LSDA ) に基づく第一原理計算を行い、非共線の磁気構造の決定を行なった。合計で 3,000 に及ぶ磁気構造に対する計算の結果、CMP + LSDA による磁気構造予測について、以下の結果を得た。
(1) 磁気構造を CMP によって展開すると与えられた物質において実現する可能性の高い磁気構造を系統的に生成できる。(2) 多くの場合において CMP + LSDA によってエネルギーを計算すると候補構造を数個に絞ることができる。(3) LSDA は 3d 遷移金属化合物を中心に正確に磁気構造を再現し、磁気モーメントのサイズの誤差はたかだか0.5μB程度である。
M.-T. Huebsch, T. Nomoto, M.-T. Suzuki, and R. Arita
Phys. Rev. X, 11 (2021) Art.No.011031, DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevX.11.011031
上のパネルは四面体近似で最大2個の格子間原子を考慮した Ni-Ti 合金の局所自由エネルギーの 2D マップである。第一原理計算で n + m ≤ 6 の NinTim 組成に対する値を決めた。Ni濃度 φNi とTi濃度 φTi は n
≤ φNi < n + 1 と m ≤ φTi < m + 1 のように離散化されており、各正方形の箱が一つの ( n, m )
に相当する。下のパネルは、上のパネルで示された局所自由エネルギーのみを用いて一切の経験パラメタを用いない第一原理フェーズフィールド法で計算された Ti-45at%Ni, Ti-48at%Ni, Ti-50at%Ni, Ti-52at%Ni, Ti-55at%Ni に対するNi濃度 φNi の定常的空間分布である。結果のパターンは格子間原子を考慮しない場合と殆ど同じだが、幾つかの角ばった析出物は回転しており、Ti-50at%Ni
の黄色のスポットの周りにオレンジの十字が見える。シミュレーションセルの軸に沿って回転がないのは格子間原子を考慮しない場合の人為的効果と考えられ、この回転は妥当である。格子間配位は最終的な微視的構造には現れないが、ダイナミクスには影響する。
Kaoru Ohno, Monami Tsuchiya, Riichi Kuwahara, Ryoji Sahara, Swastibrata Bhattacharyya, and Thi Nu Pham
Comp. Mat. Sci., 191 (2021) Art.No.110284, DOI:https://doi.org/10.1016/j.commatsci.2021.110284
本研究では、第一原理計算を用いて Mo 添加量の異なるNiCoCrFe基ハイエントロピー合金(Mox 、x = 0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.475, 0.54 [1])の格子ひずみを評価した。各構成元素の原子体積と結合長はいずれも Mo 添加量の増加に対して増加した。しかしながら、平均結合長 (BL)の
Mo 濃度に対する変化量は小さいのに対し、結合長の標準偏差(σBL)に対応するミスフィット・パラメータは Mo 添加量の増加とともに著しく増加し、Mo0.475(Ni1.8Co0.95Cr0.8Fe0.25Mo0.475)において最も高い値を示した。以上は、固溶強化に及ぼす格子膨張の影響は限定的であるが、Mo
原子により局所的な格子ひずみが導入されることを示唆している。さらに、転位すべりに対するエネルギー障壁は格子ひずみが最も大きい Mo0.475 合金において最も大きな値を示し、実験により得られた降伏応力の Mo 濃度依存性とよく対応していた。
J. Li, K. Yamanaka, and A. Chiba
Mater. Sci. Eng. A, 817 (2021) Art.No.141359, DOI:https://doi.org/10.1016/j.msea.2021.141359